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 辺りがまだ闇に包まれている頃、紫織はふと目を覚ました。

 午前中からたっぷり寝たせいだからだろうか。
 目を閉じてみても、なかなか深い眠りに落ちない。
 しかも、いつにも増して部屋の冷え込みが激しいように感じる。

「そういえばお母さん、雪が降るとか言ってたっけ?」

 紫織はひとりごちると、ゆっくりと身体を起こしてベッドから降り、窓辺へと近付いてカーテンを開けてみた。

 と、外の光景を目にしたとたん、口をポカンと開けたまま言葉を失った。

 町が白銀色に覆われていた。
 屋根も木々も、まるでフワフワの綿菓子を載せられているようだ。
 そして、限りなく黒に近い藍色の空からは、白い花弁が軽やかに舞い降りる。

 それを紫織は、素直に綺麗だと思っていた。
 寒いのはもちろん苦手だが、それでも雪は決して嫌いではないのだ。

(宏樹君と朋也も、この雪を見たのかな?)

 ふと、そんなことを思った。

 夕方の朋也の行為には驚き、朋也が朋也でなかったような気がして怖かった。
 しかし、朋也が、本当は人一倍優しいのは知っている。
 だから、これからもきっと、紫織と変わらずに接してくれるであろう。

(けど、朋也に甘えてばかりじゃダメだよね……)

 紫織はいつまでも雪空を見つめながら、その先にあるであろう遠い未来に想いを馳せた。

[第五話-End]