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 公園を出ると、宏樹と朋也は並んで夜道を歩いた。
 ふたりの間に会話はなく、ただ、黙々と家に向かっている。

「あ」

 突然、宏樹が小さく声を上げて立ち止まった。

「雪だ」

「雪?」

 宏樹の言葉を、朋也はそのまま口に乗せた。

「――ほんとだ」

 朋也も釣られるように呟き、空を仰いだ。

 十一月に入って、初めての雪。
 それらは音を立てることなく、ゆっくりと地上へと舞い降りる。

 朋也は手を翳した。
 すると、雪の欠片は朋也の手に落ち、一瞬にして透明な水となって儚く消える。

 やっと掴まえたと思っても、スルリと手から抜けてゆく。
 紫織を好きな気持ちは誰にも負けていないはずなのに、それでも、壊れた自転車のペダルのように空回りしてしまう。

「紫織は、見てるかな?」

 不意に宏樹が口にした。

 朋也は翳している手はそのままに、首だけを動かして宏樹を見た。

「多分寝てんじゃないの? 俺が行った時も、まだ体調が悪そうだったし」

「そっか。ま、仕方ないか」

 宏樹はそう言うと、雪降る夜空を見上げた。

 生まれたての雪の花は、とどまるところを知らず降り続ける。
 今はすぐに消えてしまう小さなそれも、明日になれば、この町全体を白銀の世界へと変えてゆくだろう。