宏樹は笑いを含んだ口調で言うと、「それにしても」と続けた。

「朋也、お前は俺にしてみたらまだまだ子供なんだから、無理に背伸びする必要ないぞ?」

「んだと!」

「そうそう、すぐにムキになってがっつくのが、一番朋也に似合ってんぞ」

「う……!」

 朋也は怒鳴りかけて、途中で言葉を飲み込んだ。
 ここでまた怒ったら、さらに宏樹を喜ばせてしまうことになる。
 それは非常に癪だ、と朋也は思った。

「若いうちは元気が一番! さ、そろそろ帰るぞ?」

 宏樹に促されたが、朋也は口を尖らせながら「俺はいいよ」と否定した。

「もうちょっと、ここにいたいし」

「想い出に浸るためか?」

「兄貴には関係ねえだろ」

「けど、こんなトコに長時間いたら、いくら朋也でも風邪引いちまうぞ」

「――どういう意味だよ? それ……」

「さあな」

 朋也の質問には答えず、その代わり、宏樹は強引に彼の二の腕を掴んできた。

「ほら! 帰るっつったら帰るぞ!」

「わわっ、分かったよ! 帰るから手を離しやがれ!」

「しょうがないな」

 宏樹はわざとらしく肩を竦め、朋也の腕を解放した。