しかし、宏樹の耳にはそれがしっかり届いていたらしい。

「ん? 俺が原因?」

 宏樹に訊ねられた朋也は、困惑しつつも「そうだよ!」と半ば自棄になって言い返した。

「兄貴、紫織と海に行ったって?」

「――なんだ、知ってたのか」

 宏樹は落ち着いた口調で答えていたが、ほんの一瞬、眉がピクリと痙攣したのを朋也は見逃さなかった。

「別に知ってたわけじゃねえよ。学校から帰って来て、加藤の小母さんに聞くまでは知らなかったんだし。
 ついでに言うけど、紫織今、風邪引いて寝込んじまってる」

 朋也はそこまで言うと、宏樹を覗うように上目で睨む。

 宏樹の表情に変化は見られない。
 その代わり、「そっか」と小さく言った。

「紫織には悪いことしたな。確かに、紫織はあまり丈夫な方じゃないし、無理に連れ出すべきじゃなかったかもしれない……」

「それもかなりムカついたけど」

 朋也は、フウ、と息を吐いて続けた。

「俺は、紫織とコソコソ出かけたことに一番腹を立ててんだ。別にどこ行こうと構わねえけどよ、何だか……、のけ者にされたようですっげえ気分悪い」

「――悪かったな」

 宏樹は心底申し訳なさそうに笑んだ。

「別に俺は、もちろん紫織だって、朋也をのけ者にしようなんて微塵も思わなかったよ。ただ、タイミングがちょっと悪かっただけで。それに、紫織と出かけたのは偶然だ。俺がひとりで出てみたら、紫織にバッタリ逢ってしまって、それならば、と声をかけてみただけだ」

 宏樹は真っ直ぐに朋也を見つめる。
 今の言葉に嘘偽りはいっさいない、と言わんばかりに。

「ま、まあ、俺もちょっと大人げなかったし」

 朋也は気まずくなり、宏樹から視線を外した。

「今回は、勘弁してやるよ」

「そりゃどうも」