「やっぱりお前か」

 足音の主は、朋也の前でピタリと足を止めた。

 一方、朋也は相手が誰か分かると、苦虫を噛み潰した気分で顔をしかめた。

 そこにいたのは、顔を見たくないと思っていた者――兄の宏樹であったから。

「何しに来たんだよ?」

 不機嫌を露わにしてぶっきらぼうに問うと、宏樹はわざとらしく肩を竦めながら苦笑した。

「どうした? いつにも増して不機嫌そうだな」

「うっせえ。兄貴には関係ねえよ」

「――紫織絡みか?」

「なっ……!」

 宏樹にズバリ言われた朋也は、あからさまに動揺した。

 それを宏樹は、さも楽しそうにニヤニヤ笑いながら眺めている。

「紫織といい、朋也といい、ほんとに素直でいいよなあ」

「馬鹿にしてんじゃねえよ!」

 朋也は思わず声を荒らげてしまった。
 その怒声は、狭い公園いっぱいに響き渡る。

「まあ、落ち着け」

 宏樹は動揺を微塵も感じさせず、むしろ淡々と朋也を宥めてきた。

「朋也がどうしてそこまで機嫌が悪くなってるのか俺には分かんねえけど、ことある毎にイライラしてたらお前も身が持たないぞ?」

「――イライラさせてんのは兄貴だろ」

 最小限まで声を抑えて呟いた。