(足が着かない時期もあったってのになあ)

 朋也は微苦笑を浮かべると、地面へと視線を落とす。

 公園に設置された灯りで、そこには黒い影がぼんやりと浮かび上がっている。
 自分の影だと分かっているのに、まるで、別の誰かが朋也を傍観しているようにも感じてしまう。

 そんな自分があまりにも滑稽に思え、朋也は影に向かって苦笑いした。

「情けねえ……」

 朋也はひとりごちた。

 紫織に想いを告げたことは後悔していない。
 ただ、宏樹の本心――憶測ではあるが――を第三者の自分から言ってしまったのはフェアじゃなかった。
 もちろん、紫織を心配したのは事実だ。
 しかし、心のどこかでは、宏樹を諦めさせて自分に気持ちを向けさせようともしていた。
 どんなにしても紫織が揺るがないと分かっていても、だ。

(よけい、兄貴の顔が見たくなくなってきたよ……)

 そう思った、まさにその時であった。

 ジャリ、ジャリ、と地面を踏み締める音が少しずつ近付いて来た。

(誰だ……?)

 朋也は怪訝に思いながら頭をもたげ、足音らしきものの正体を見極めようとした。