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 紫織の家を出ると、辺りは夜の色に染まり、あちこちの家では暖かさを感じさせる明かりがポツポツと灯っていた。
 今日は一段と冷え込みが激しい。

(そういや、今晩は雪が降るっつってたな)

 不意に思いながら、朋也は天を仰いだ。
 そこには星が全く見えず、重苦しい暗雲が空の隅々まで広がっている。
 まるで、朋也の沈みきった気持ちを表すかのように。

(ただ、紫織が好きなだけだってのに……)

 朋也は頭を下げると、自宅には行かず、そのまま反対方向へ歩き出した。

 当てなどあるはずもない。
 ただ、少しでも気分が紛れてくれれば、と朋也は思った。

 しばらく歩くと、眼前に公園が見えてきた。

 その場所は、猫の額ほど、という比喩がしっくりくるほどこじんまりとしていて、木製のベンチの他には、ブランコと鉄棒、小さな砂場ぐらいしかない。

 朋也は、吸い寄せられるように公園の中へ足を踏み入れ、ふたつ並ぶブランコの元へと向かった。

(ガキの頃を想い出すな)

 そう思いながらブランコに腰を下ろし、それを吊り下げている鎖に両腕を引っかける。

 ブランコに乗るのは何年ぶりだろう。
 久々に乗ったブランコはずいぶんと小さく、両足を前に投げ出す姿勢にしないと乗りづらい。