紫織は夢見心地で、朋也の言葉を聴き続けていた。

 冗談でしょ、と笑い飛ばせたらどんなに楽かと思ったが、今の言葉に嘘偽りがないことは、紫織も痛いほど理解していた。
 だからこそ、困惑した。
 朋也を傷付けたくない。
 だが、自分の気持ちに嘘は吐けない。

(私は、どうしたらいいの……?)

 心の中で自分に問うも、答えは出ない。

 すると、紫織を抱き締めていた朋也の腕の力が、少しずつ緩んでいった。

 紫織は朋也から身体を離し、朋也を見つめた。

 怖くないと言えば嘘になる。
 しかし、ちゃんと朋也の目を見なくては、と紫織は思ったのだ。

 朋也は紫織と視線がぶつかると、小さく笑みを浮かべた。
 無理に笑っている。
 それは、紫織にも痛いほど伝わってきた。

「そろそろ帰るわ」

 朋也は紫織から視線を外すと、ゆっくりと立ち上がった。

「色々悪かったな。それじゃあ、一日も早く元気になれよ」

 チラリと紫織を一瞥したあと、朋也はドアを開けて部屋から出て行った。

 ドアが閉められ、朋也の気配がなくなると、一気に静寂が訪れた。

 とたんに、紫織の中に言いようのない孤独が襲ってきた。
 瞳から透明な雫が溢れ出し、それは頬を伝い、布団をじわじわと濡らしてゆく。

「……な、んで……」

 紫織はひとり、嗚咽を漏らす。

 それが、宏樹へ想いが届かないことへの絶望なのか、朋也の真摯な想いを踏みにじったことに対する罪悪感からなのか、紫織自身も分からなかった。