「朋也……」

 紫織はゆっくりと朋也に近付こうとした。

 と、その時だった。


 パシンッ!


 朋也が立ち上がって振り返ったのと同時に、紫織のコートに雪玉がひとつ飛んできた。

 一瞬、何が起こったのか理解出来ず、そのまま呆然としていたら、今度は二発目が飛ばされた。
 それは、宏樹の肩に当たって砕けた。

「と、朋也……?」

 紫織の頬がヒクヒクと痙攣する。

 それを見て、朋也は、してやったり、と言わんばかりにニヤリと笑った。

「油断大敵ー!」

「……こー、のー、やー、ろーっ!」

 紫織が掴みかかろうとする前に、朋也はすでに家の敷地内から逃亡していた。

「もう!」

 悔しがって地団駄を踏む紫織の肩を、宏樹が小さく叩いた。

「紫織、反撃してやろう」

 宏樹はそう言って、いつの間に作っていたのか、雪玉をひとつ差し出してきた。

「そうだね! このまんまじゃ怒りが治まんないもん!」

 紫織は雪玉を受け取ると、朋也を追い駆けながら投げる。
 だが、それは標的に当たるどころか、距離が届かず途中で虚しく落ちてしまった。

「へっへーん! へったくそー!」

 離れた場所から、舌を出して紫織を挑発する朋也。

 怒りはさらに倍増した。

(悔しい悔しい悔しい……!)

 肩を怒らせ、両手の拳を強く握り締める。

 確かに、朋也の運動神経は遥かに高い。
 諦めるしかないかと思ったのだが。