(熱があったままの方が、朋也としても嬉しいかもしれない)

 つい、そんなことまで考えてしまう。

「あ、あのさ紫織」

 ふと、朋也が口を開いた。

「なに?」

 紫織は朋也を見つめる。

「えっとさ、ちょっと、変なこと訊くけど……」

 朋也はふいと紫織から視線を逸らすと、それこそ言いにくそうに、だが、はっきりと訊ねてきた。

「――紫織、昨日、兄貴と海に行ったって?」

 この言葉に、紫織の鼓動が跳ね上がった。
 宏樹と海へ行ったのは決して悪いことではない。
 ましてや、朋也に内緒にするほど大袈裟なものでもない。
 しかし、心のどこかで、昨日のことを朋也に知られてはならなかったと思っている。
 だからと言って、嘘を吐くのもまたおかしな話だ。

 紫織は少々躊躇いつつ、「うん」と頷くと、恐る恐る朋也の反応を覗った。

「――そう……」

 朋也の返答は素っ気なかったが、わずかに眉が痙攣したのを紫織は決して見逃さなかった。

「――ごめん……」

 つい、謝罪を口にした。

 だが、それがかえって朋也の気に障ったのか、今度はあからさまに表情を険しくさせた。

「なんで謝るんだよ?」

「え? 私もよく分かんないけど……。ただ、謝んなきゃなんないような気がして……」

「もしかして、俺に同情でもしてんの?」

「――は? 何言ってんの……?」

 紫織はゆっくりと身体を起こした。
 しかし、まだ、体調は不安定なままだから、一瞬、フラリとしてしまった。