◆◇◆◇◆◇
夢と現実の境界線を彷徨っていた紫織は、すぐ近くで物音を聴いた。
(お母さん、かな……?)
紫織は目を閉じながら思っていると――
「紫織」
耳元で名前を呼ばれた。
だが、その声は母親のものにしては低過ぎる。
(――誰……?)
紫織はゆっくりと目を開き、声の主に顔を向けた。
「よ」
声の主は、小さく笑みながら軽く手を挙げている。
「――朋也……?」
紫織は風邪で掠れた声で、相手の名を呼んだ。
それに満足したのか、朋也はさらに嬉しそうに口元を綻ばせると、「どうだ?」と訊ねてきた。
「さっき、小母さんにばったり逢って、紫織が風邪引いて休んだって聴いたんだけど。――今の具合は?」
「……うん、水分もたっぷり摂ったし、薬を飲んでからはぐっすり眠れたから、だいぶ楽になったみたい……」
横になった状態のままで答えると、朋也は安心したように「そっか」と言った。
「大したことないなら良かったよ。たかが風邪、と思ってても、こじらせたら大変だっつうしな。とにかく、今はしっかり休んどけよ」
「――ありがと……」
普段は何かと突っかかってくるのに、風邪を引いているからか、朋也がいつになく優しい。
紫織もまた、熱で心細さを感じていたために、朋也の温かい気遣いを素直に受け止めている。
夢と現実の境界線を彷徨っていた紫織は、すぐ近くで物音を聴いた。
(お母さん、かな……?)
紫織は目を閉じながら思っていると――
「紫織」
耳元で名前を呼ばれた。
だが、その声は母親のものにしては低過ぎる。
(――誰……?)
紫織はゆっくりと目を開き、声の主に顔を向けた。
「よ」
声の主は、小さく笑みながら軽く手を挙げている。
「――朋也……?」
紫織は風邪で掠れた声で、相手の名を呼んだ。
それに満足したのか、朋也はさらに嬉しそうに口元を綻ばせると、「どうだ?」と訊ねてきた。
「さっき、小母さんにばったり逢って、紫織が風邪引いて休んだって聴いたんだけど。――今の具合は?」
「……うん、水分もたっぷり摂ったし、薬を飲んでからはぐっすり眠れたから、だいぶ楽になったみたい……」
横になった状態のままで答えると、朋也は安心したように「そっか」と言った。
「大したことないなら良かったよ。たかが風邪、と思ってても、こじらせたら大変だっつうしな。とにかく、今はしっかり休んどけよ」
「――ありがと……」
普段は何かと突っかかってくるのに、風邪を引いているからか、朋也がいつになく優しい。
紫織もまた、熱で心細さを感じていたために、朋也の温かい気遣いを素直に受け止めている。