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 夢と現実の境界線を彷徨っていた紫織は、すぐ近くで物音を聴いた。

(お母さん、かな……?)

 紫織は目を閉じながら思っていると――

「紫織」

 耳元で名前を呼ばれた。
 だが、その声は母親のものにしては低過ぎる。

(――誰……?)

 紫織はゆっくりと目を開き、声の主に顔を向けた。

「よ」

 声の主は、小さく笑みながら軽く手を挙げている。

「――朋也……?」

 紫織は風邪で掠れた声で、相手の名を呼んだ。

 それに満足したのか、朋也はさらに嬉しそうに口元を綻ばせると、「どうだ?」と訊ねてきた。

「さっき、小母さんにばったり逢って、紫織が風邪引いて休んだって聴いたんだけど。――今の具合は?」

「……うん、水分もたっぷり摂ったし、薬を飲んでからはぐっすり眠れたから、だいぶ楽になったみたい……」

 横になった状態のままで答えると、朋也は安心したように「そっか」と言った。

「大したことないなら良かったよ。たかが風邪、と思ってても、こじらせたら大変だっつうしな。とにかく、今はしっかり休んどけよ」

「――ありがと……」

 普段は何かと突っかかってくるのに、風邪を引いているからか、朋也がいつになく優しい。

 紫織もまた、熱で心細さを感じていたために、朋也の温かい気遣いを素直に受け止めている。