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 外に出ると、中とは比べものにならないほど空気が痛い。
 天気予報では今日の最低気温がマイナス十度を切ったと告げていたらしい。
 それを母親から改めて聴かされた紫織は、さらに憂鬱が増した。

「おっ、来た来た!」

 隣の家に行くと、予告通り、朋也が庭の中で待っていた。

 寒さをものともせず、それどころかよけいにハイテンションになっている朋也と、その隣には、彼の兄の宏樹(こうき)の姿もある。

「紫織、おはよう」

 朋也とは対照的に、宏樹は穏やかな笑みを浮かべた。

「宏樹君、おはよう」

 紫織は宏樹に抱き着きたい衝動に駆られる。
 だが、すんでのところで思い留まり、その代わり、ニッコリと微笑み返した。

「寒いのに悪いな。朋也が、どうしても紫織も誘って雪遊びしたいって言い張るもんだから……」

「うーん……。確かに、ちょっと強引かなあ、とは思ったんだけどね」

「やっぱり」

 宏樹は微苦笑を浮かべると、肩を竦めて見せた。
 その様子から、宏樹も紫織同様、無理矢理外に連れ出されたのだろうと推測出来た。

 十歳も年の離れた弟には甘い彼だから、つい、わがままを聴いてしまったのだろう。
 せっかくの休みなのだし、本当は家の中でのんびりと過ごしたかっただろうに。

「で、これから何をするんだ?」

 雪ではしゃいでいる朋也に、宏樹が訊ねた。

「そうだなあ……。雪ダルマを作るとなると時間がかかるし、かまくらは、時間どうこうよりも、ここじゃあ場所が狭過ぎるし……。
 よし! 雪合戦はどうだ? これならすぐに出来るし、身体も温まって一石二鳥!」

「――なに言ってんの……?」

「なんだよ? 不満なのかよ?」

「当然でしょ! 雪合戦なんて……、雪が当たったら痛いもん。だから嫌!」

 紫織はプイと横を向いた。

 宏樹は何も言わず、ただ、先ほどと変わらずに苦笑いを浮かべているだけだった。

「んだよ、ふたりしてさ。人がせっかくよお……」

 朋也はブツクサとひとりで文句を言いながら、背中を向けてその場にしゃがみ込んだ。
 拗ねてしまったのだろうか。

 紫織はチラリと朋也に視線を向ける。
 心なしか、背中が淋しそうに見えてしまった。