「……ぷっ……!」

 突然、宏樹が吹き出したかと思ったら、そのまま声を上げて笑った。

「あっはははは……! 冗談だ、冗談! 別に寝言も言ってなかったし、笑ってもいなかった。涎も出してなかったよ」

「――へ……?」

 紫織はポカンとして、宏樹を見つめた。

 一瞬、状況が掴めずにいたが、落ち着きを取り戻すにつれ、何とも言いがたい複雑な想いが紫織の中で渦巻き出した。

 朋也が弄ばれている姿はよく見ていたが、まさか、自分までもが宏樹のターゲットにされようとは予想だにしなかったのである。

(――酷い……)

 今さらながら、からかわれ続ける朋也の気持ちが分かったような気がした。

 一方、宏樹は悪びれた様子などいっさいない。
 してやったり、と言わんばかりに、未だに涙を浮かべながら笑い続けている。

 紫織には優しいはずの宏樹。
 しかし、今は明らかに違う。

(私、道を間違えちゃったのかな……?)

 宏樹の隣で、紫織はひっそりと溜め息を吐いた。