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 車を走らせてから、一時間ほどが経過していた。

 宏樹はどこへ向かうつもりなのか、途中で国道を逸れ、民家の疎らな道を走らせてゆく。

 ふたりの間に会話はない。
 カーオーディオも切っている状態なので、車内にはエンジンの騒音とタイヤの擦れるような音だけがやけに響いている。

 そのうち、紫織に眠気が襲ってくる。
 ほど良い振動と、外とは対照的な暖気がやけに心地良く、船を漕いでは慌てて目を覚ますという行為を何度も繰り返していた。

「寝ていいぞ?」

 見かねたのか、運転席の宏樹が紫織に言ってくれたが、ずっと運転している宏樹に対してさすがに躊躇いを覚える。

「――大丈夫だよ」

 だが、そう言った側からまたしても睡魔に襲われる。

 宏樹は紫織を一瞥すると、呆れたように苦笑を浮かべた。

「いいから。我慢されるより、素直に寝てもらった方が俺も助かるから」

 そこまで言われると、遠慮するのがかえって悪い気持ちになる。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 紫織が言うと、宏樹は満足げに頷いた。

「もうちょっとかかるからな。到着するまでゆっくり寝てろ」

「うん……」

 紫織は頷くと、間もなく深い眠りに就いた。