◆◇◆◇
食事も終盤に差しかかった頃だった。
「おはようございまーす!」
廊下から、少年の元気な声が飛び込んできた。
紫織と母親は顔を合わせる。
「――あの声……」
母親は苦笑しながらリビングを出る。
紫織もそのあとを着いて行った。
「よっ、紫織!
あ、おばさん、おはようございます!」
ふたりを見るなり、声の主である少年は、寒さも吹き飛ばしてしまいそうなほどの大声で挨拶してくる。
「おはよう、朋也君」
母親は先ほどまでの苦笑をいつの間にか引っ込め、それと入れ替わりにニッコリと微笑んでいる。
「――朝っぱらからなに……?」
母親とは対照的に、紫織は愛想笑いすら浮かべずに冷たく訊ねた。
だが、少年――朋也は全く意に介していない様子だった。
「紫織、外見たか? すっげえ雪が積もってんぞ!」
「知ってる。さっき窓から見たもん」
「だよなっ? あんだけの雪見たら、誰だってテンション上がるよ!」
全く会話が噛み合っていない。
紫織は思わず眉間に皺を刻んで口角を歪めた。
「で、それだけをわざわざ伝えに来たの?」
「んなわけねえだろ……」
紫織の冷めた口調に、さすがの朋也も力なく漏らす。
「せっかく雪が積もったんだから、久々に外で遊ぼうかと思ったんだよ。お前、冬になると、ずーっと家に閉じ籠りっ放しだしな」
「え、やだ」
朋也の言葉に、紫織はきっぱりと否定した。
「雪は好きだけど、冬は大っ嫌いだもん。それに雪を触ると冷たいし痛いし……。だったら、家でぬくぬくと大人しくしていた方が何十倍もマシ!」
「――なんだかなあ」
朋也は大袈裟に思えるほど、深い溜め息を吐く。
「お前さあ、そんなんじゃこれから先、何にもやってけないぜ。『寒いのが嫌』、『痛いのが嫌』だとか……。
いいか? すぐに着替えて外に出て来い! 俺は俺ん家の庭で待ってる。 絶対来い! 分かったな?」
朋也はそこまで言うと、玄関のドアを開けて出て行った。
「――そんなあ……」
朋也が立ち去った後、紫織は半泣き状態でぼやいた。
「確かに、朋也君の言うことももっともね」
「お母さん!」
紫織はキッと母親を睨んだ。
母親は微苦笑を浮かべながら、紫織の肩を小さく叩いた。
「今日は朋也君に鍛えてもらいなさい。寒さに強くなれば、風邪だって引きにくくなるかもしれないでしょ?」
やんわりと言っているようだが、異を唱えさせる気が全くないのが嫌というほど伝わってきた。
紫織は肩を落としながら、二階の自室へと戻って行った。
食事も終盤に差しかかった頃だった。
「おはようございまーす!」
廊下から、少年の元気な声が飛び込んできた。
紫織と母親は顔を合わせる。
「――あの声……」
母親は苦笑しながらリビングを出る。
紫織もそのあとを着いて行った。
「よっ、紫織!
あ、おばさん、おはようございます!」
ふたりを見るなり、声の主である少年は、寒さも吹き飛ばしてしまいそうなほどの大声で挨拶してくる。
「おはよう、朋也君」
母親は先ほどまでの苦笑をいつの間にか引っ込め、それと入れ替わりにニッコリと微笑んでいる。
「――朝っぱらからなに……?」
母親とは対照的に、紫織は愛想笑いすら浮かべずに冷たく訊ねた。
だが、少年――朋也は全く意に介していない様子だった。
「紫織、外見たか? すっげえ雪が積もってんぞ!」
「知ってる。さっき窓から見たもん」
「だよなっ? あんだけの雪見たら、誰だってテンション上がるよ!」
全く会話が噛み合っていない。
紫織は思わず眉間に皺を刻んで口角を歪めた。
「で、それだけをわざわざ伝えに来たの?」
「んなわけねえだろ……」
紫織の冷めた口調に、さすがの朋也も力なく漏らす。
「せっかく雪が積もったんだから、久々に外で遊ぼうかと思ったんだよ。お前、冬になると、ずーっと家に閉じ籠りっ放しだしな」
「え、やだ」
朋也の言葉に、紫織はきっぱりと否定した。
「雪は好きだけど、冬は大っ嫌いだもん。それに雪を触ると冷たいし痛いし……。だったら、家でぬくぬくと大人しくしていた方が何十倍もマシ!」
「――なんだかなあ」
朋也は大袈裟に思えるほど、深い溜め息を吐く。
「お前さあ、そんなんじゃこれから先、何にもやってけないぜ。『寒いのが嫌』、『痛いのが嫌』だとか……。
いいか? すぐに着替えて外に出て来い! 俺は俺ん家の庭で待ってる。 絶対来い! 分かったな?」
朋也はそこまで言うと、玄関のドアを開けて出て行った。
「――そんなあ……」
朋也が立ち去った後、紫織は半泣き状態でぼやいた。
「確かに、朋也君の言うことももっともね」
「お母さん!」
紫織はキッと母親を睨んだ。
母親は微苦笑を浮かべながら、紫織の肩を小さく叩いた。
「今日は朋也君に鍛えてもらいなさい。寒さに強くなれば、風邪だって引きにくくなるかもしれないでしょ?」
やんわりと言っているようだが、異を唱えさせる気が全くないのが嫌というほど伝わってきた。
紫織は肩を落としながら、二階の自室へと戻って行った。