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 食事も終盤に差しかかった頃だった。

「おはようございまーす!」

 廊下から、少年の元気な声が飛び込んできた。

 紫織と母親は顔を合わせる。

「――あの声……」

 母親は苦笑しながらリビングを出る。
 紫織もそのあとを着いて行った。

「よっ、紫織!
 あ、おばさん、おはようございます!」

 ふたりを見るなり、声の主である少年は、寒さも吹き飛ばしてしまいそうなほどの大声で挨拶してくる。

「おはよう、朋也(ともや)君」

 母親は先ほどまでの苦笑をいつの間にか引っ込め、それと入れ替わりにニッコリと微笑んでいる。

「――朝っぱらからなに……?」

 母親とは対照的に、紫織は愛想笑いすら浮かべずに冷たく訊ねた。

 だが、少年――朋也は全く意に介していない様子だった。

「紫織、外見たか? すっげえ雪が積もってんぞ!」

「知ってる。さっき窓から見たもん」

「だよなっ? あんだけの雪見たら、誰だってテンション上がるよ!」

 全く会話が噛み合っていない。
 紫織は思わず眉間に皺を刻んで口角を歪めた。

「で、それだけをわざわざ伝えに来たの?」

「んなわけねえだろ……」

 紫織の冷めた口調に、さすがの朋也も力なく漏らす。

「せっかく雪が積もったんだから、久々に外で遊ぼうかと思ったんだよ。お前、冬になると、ずーっと家に閉じ籠りっ放しだしな」

「え、やだ」

 朋也の言葉に、紫織はきっぱりと否定した。

「雪は好きだけど、冬は大っ嫌いだもん。それに雪を触ると冷たいし痛いし……。だったら、家でぬくぬくと大人しくしていた方が何十倍もマシ!」

「――なんだかなあ」

 朋也は大袈裟に思えるほど、深い溜め息を吐く。

「お前さあ、そんなんじゃこれから先、何にもやってけないぜ。『寒いのが嫌』、『痛いのが嫌』だとか……。
 いいか? すぐに着替えて外に出て来い! 俺は俺ん家の庭で待ってる。 絶対来い! 分かったな?」
 朋也はそこまで言うと、玄関のドアを開けて出て行った。

「――そんなあ……」

 朋也が立ち去った後、紫織は半泣き状態でぼやいた。

「確かに、朋也君の言うことももっともね」

「お母さん!」

 紫織はキッと母親を睨んだ。

 母親は微苦笑を浮かべながら、紫織の肩を小さく叩いた。

「今日は朋也君に鍛えてもらいなさい。寒さに強くなれば、風邪だって引きにくくなるかもしれないでしょ?」

 やんわりと言っているようだが、異を唱えさせる気が全くないのが嫌というほど伝わってきた。

 紫織は肩を落としながら、二階の自室へと戻って行った。