◆◇◆◇◆◇
その日の夜、宏樹は夕食を済ませてから自室に電話の子機を持ち込んだ。
番号を押すたびに鳴る電子音。
期待よりも不安が押し寄せる。
やがて、電話の向こうでコール音が鳴り出した。
一回、二回、三回……
相手はなかなか出ない。
(やっぱり、ダメか……)
諦めて電話を切ろうとしたその時だった。
コール音がピタリとやみ、向こう側から『もしもし』と透明感のある声が聴こえてきた。
宏樹は慌てて受話器を耳に当てる。
「あ、えっと……、千夜子……?」
本人だと分かっていたが、念のためにと確認する。
『――うん』
電話の相手――千夜子は消え入りそうな声で答えた。
「元気だった?」
『うん、コウは?』
「ああ、俺もお陰様で」
『そう』
久しぶりの会話だからか、互いにぎこちない。
話したいことはたくさんあるはずなのに、何を話して良いのか分からず、宏樹も少しばかり困惑していた。
『――ごめんね……』
数秒間の沈黙のあと、千夜子が謝罪を口にしてきた。
何故、謝られるんだ、と宏樹は怪訝に思いながら眉根を寄せる。
「どうしたんだ、いったい……?」
宏樹が訊ねるも、千夜子はまた、口を閉ざしてしまった。
宏樹は、辛抱強く言葉の続きを待つ。
静まり返った部屋の中に響く、時計の針の音。
心臓の鼓動もトクトクと脈打っている。
その日の夜、宏樹は夕食を済ませてから自室に電話の子機を持ち込んだ。
番号を押すたびに鳴る電子音。
期待よりも不安が押し寄せる。
やがて、電話の向こうでコール音が鳴り出した。
一回、二回、三回……
相手はなかなか出ない。
(やっぱり、ダメか……)
諦めて電話を切ろうとしたその時だった。
コール音がピタリとやみ、向こう側から『もしもし』と透明感のある声が聴こえてきた。
宏樹は慌てて受話器を耳に当てる。
「あ、えっと……、千夜子……?」
本人だと分かっていたが、念のためにと確認する。
『――うん』
電話の相手――千夜子は消え入りそうな声で答えた。
「元気だった?」
『うん、コウは?』
「ああ、俺もお陰様で」
『そう』
久しぶりの会話だからか、互いにぎこちない。
話したいことはたくさんあるはずなのに、何を話して良いのか分からず、宏樹も少しばかり困惑していた。
『――ごめんね……』
数秒間の沈黙のあと、千夜子が謝罪を口にしてきた。
何故、謝られるんだ、と宏樹は怪訝に思いながら眉根を寄せる。
「どうしたんだ、いったい……?」
宏樹が訊ねるも、千夜子はまた、口を閉ざしてしまった。
宏樹は、辛抱強く言葉の続きを待つ。
静まり返った部屋の中に響く、時計の針の音。
心臓の鼓動もトクトクと脈打っている。