「そんなの聴いてみなけりゃ分かんないでしょ? でで、どういう人なの?」

 紫織の言葉に気を良くした涼香は、目を爛々と輝かせながら耳を傾けてくる。

(やっぱりただの興味本位じゃん……)

 そう思いつつも、紫織はかいつまんで話した。

 宏樹の名前と関係、そして、宏樹を意識するきっかけとなった、あの迷子になった冬の日のこと――

 涼香は何度も頷きながら、話している間はいっさい口を挟まなかった。

「とまあ、こんな感じで……」

 ひととおり話し終えた紫織は、フウと息を吐いた。

「なるほどねえ」

 話を聴き終えた涼香は、胸の前で両腕を組みながら、またひとつ大きく頷く。

「確かにそんなかっこいい兄ちゃん相手じゃ、高沢は敵わないかもなあ。それにしても、その頃の高沢の兄ちゃん、今の私らと同じくらいの年だったんだよね? それくらいの年代だと、いくら頼まれたとしてもめんどくさいって思うかもしれないのに」

「そうだよね。私も宏樹君――あ、宏樹ってゆうのは朋也のお兄ちゃんの名前ね。もし、宏樹君の立場だとしたら、絶対に嫌だなって思うと思う。だからこそ、宏樹君には今でも感謝してるんだ。私を探し回ってクタクタだっただろうに、帰りには、おんぶして家まで連れて帰ってくれたし」

 紫織は涼香に話しながら、その時のことを改めて想い出していた。

 広い宏樹の背中。
 それに安心しきったのと、寒さで体力の限界を超えていた紫織は、間もなく深い眠りに就いた。

 目が覚めた時は、自分の家の布団に包まっていた。

 あの日のことは夢なのかと思えるほど、おぼろげな記憶。
 しかし、宏樹の匂いと温もりは確かにはっきりと残っていた。