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 今日は一日、朝から放課後まで良い天気が続いていた。

 現在は午後四時だが、日の短い今の時季、太陽はすでに西に傾いている。

 その中を、紫織と涼香は並んで歩いていた。

「あーあ! 今日も一日疲れたわあ!」

 往来のど真ん中だというのに、涼香は全く気に留めた様子もなく、豪快な大欠伸をする。

「ちょっと! やめてってば!」

 本人より、一緒にいる紫織の方がオロオロする。
 いつもながら、この羞恥心のなさだけはどうにかしてもらいたいと切実に思う。

 同性の紫織から見ても涼香は相当な美人なのに、このオヤジ臭さでいっぺんにだいなしになってしまう。
 そう何度注意してもいっこうに治る気配がない。
 それどころか、日に日にエスカレートしているようにも感じる。

(もったいないよなあ……)

 涼香の整った横顔を見るたび、深い溜め息が漏れる。

「紫織」

 寒空の下で背伸びをしながら、涼香は目だけを動かして紫織を見た。

「そういえばさ、あんたに聴いてなかったよね?」

「え……?」

 涼香が言わんとしている意図が掴めずに紫織は首を傾げていると、涼香はズイと顔を近付けてきた。

「もう、とぼけんじゃないよ!」

「だって、ほんとに分かんないんだもん……」

 すっかり困惑している紫織は、眉をひそめて涼香を睨む。

「もう、しょうがないなあ」

 涼香はニヤリと笑みを浮かべた。

「ほら、あんたの好きな人のこと。いるのは分かったけど、具体的にどんな人かは教えてもらってなかったでしょ?」

「――まだ憶えてたの……?」

 過ぎたことだと思っていただけに、涼香のしつこいほどの記憶力には呆れるのを通り越して感心してしまう。