だが、それも小学校までのことで、中学に上がってからはさすがに外で駆けずり回るようなことはしなくなり、その代わり、部活で存分に身体を動かしていたようだ。
 高校では部活に入らなかったようだが。

(分かりやすい奴だよ、ほんとに)

 思わず笑いが込み上げてくる。

 朋也があえて部活動をしない理由。
 それは考えるまでもなく、紫織といる時間を少しでも長く作りたいと考えているからだ。

 中学では部活動は強制だったのでそうはいかなかったようだが、高校は週一の必修さえ出れば問題ない。
 しかし、そこまで頑張って紫織に近付こうとしても、当の紫織は全くその気がないらしい。

 その原因が、自分にあることも薄々ながら感じている。

 紫織が迷子になったあの時は、確かに〈兄〉として見られていたのだが、いつからか女の目で宏樹を見るようになっていた。
 紫織は必死でそれを隠そうとしているのは分かったので、宏樹も気付かないふりをしている。
 それに、宏樹自身が紫織を〈妹〉としてしか見ることが出来ない。

 紫織のことは可愛いと思っているが、それはあくまでも家族を想うような感情であって、決して恋愛に結び付かない。

 恋愛感情を抱くのは、高校の頃から付き合っている彼女だけ。
 他の異性から告白されたことも何度かあったが、それでも気持ちが揺らぐことは決してなかった。

(逢いたい……)

 彼女のことを考えていたら、無性に恋しさを感じた。
 逢うのが難しいのであれば、せめて声だけでも聴きたい。
 彼女の都合を考えた方が良いとも思いつつ、しかし、一度心に広がってしまった感情は決して止められない。

(今夜、電話してみるか)

 宏樹は目に付いた空き地に車を乗り入れると、人が来ないのを確認してバックさせ、元来た道に逆戻りさせた。