「朋也、訊いてもいいか?」

 未開封のビール缶を手にしたまま、宏樹が口を開いた。

「訊くって、何をだよ?」

 朋也は怪訝に思いながら訊き返す。

 宏樹は自らの顎をさすり、少し考えるような仕草を見せてから、「紫織のことだよ」と言った。

「お前、紫織が好きだろ?」

「なっ、なな……!」

 あまりにもストレートな訊き方に、朋也は目を見開いたまま、言葉にならない言葉を発していた。

「図星だな」

 朋也の反応を見ながら、宏樹はさも愉快そうにニヤリと笑う。
 明らかにからかわれている。

「わ、悪いかっ!」

 気が付くと、宏樹に啖呵を切っていた。

「俺は誰にも迷惑をかけてねえじゃねえか! 紫織にだって好きだって言ったことはない! どうせ、俺のはただの片想いだしよ!」

「ああ、少しは落ち着け」

 宥めようとしているのか、興奮している朋也の肩を宏樹は何度も叩いた。

「誰も『悪い』なんて言ってねえじゃねえか。――全く、早とちりもいいところだな。
 俺はただ、朋也の気持ちをお前の口から聞いてみたかっただけだ。まあ確かに、お前の過剰過ぎる反応もおも……、あ、いやいや」

 宏樹は言いかけた言葉を、慌てて咳払いで誤魔化していた。
 何を言おうとしていたかは、考えるまでもない。

「とにかく、紫織をそこまで好きならば、もっと頑張らないとだぞ? あんまりモタモタしてると、他の男に持ってかれるかもしれないからな」

「――言われなくても……」

 朋也は力なく肩を落とした。

「でも、いくら頑張ったって無駄なんだよ。――だいたい、紫織は……」

 朋也はそこまで言うと、宏樹を睨んだ。

「ん?」

 宏樹は怪訝そうに首を捻る。

 朋也が言わんとしていることを全く分かっていないのか、それともポーズなのか、宏樹の表情から覗うことが出来ない。

「――何でもない」

 朋也は宏樹から視線を外し、コーラ缶のプルタブを上げた。

「変な奴だな」

 宏樹は苦笑しながら、自らもビール缶を開けてそれを口に運んだ。

(ほんとに食えない男だよ、兄貴は……)

 黙々とビールを流し込んでいる宏樹を、朋也は苦々しく思いながら睨み続けた。

[第二話-End]