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 いつもと変わらない夕飯を済ませてから、朋也は再び自室へ向かった。

 母親には、「ちょっとぐらい、家族と過ごそうって気持ちにはならないの?」と小言を言われたが、宿題があるからと適当にあしらった。
 もちろん、そんなものは方便だ。

 とにかく、朋也は自室に着くなり、一度消した電気ストーブを点火し、学校から帰った時と同様にベッドに転がる。

 夕飯前まで寝ていたせいか、横になっても全く眠気を感じない。
 もしかしたら、本でも読めば眠くなるだろうかとも思ったが、朋也は活字を読むと、哀しいことに睡魔よりも頭痛に襲われる。

(どうしたもんか……)

 ぼんやりと天井を睨んでいたその時、部屋のドアが軽くノックされた。

 また、母親だろうか。

 朋也はベッドに横たわったまま、「ああ?」と無愛想に応答した。

「俺だよ」

 ドアの向こうから聴こえた声は、母親とは全く正反対の低い声だった。

 父親に至っては息子達の部屋をわざわざ訪れることなど滅多にないから、消去法でいくと残るはあとひとりである。

 面倒臭いと思いつつ、朋也は起き上がり、ドアの前まで行って開けた。

 やはり、兄の宏樹だった。

「退屈そうだな」

 宏樹は朋也を確認するなり、ニヤリと口の端を上げた。

「――何だよ……?」

 つっけんどんに訊ねると、宏樹はわざとらしく肩を竦めた。

「そんなにピリピリするな。俺も暇だったから、お前と話でもしようと思っただけだよ」

 宏樹はそう言いながら、朋也にコーラ缶を手渡してきた。
 よくよく見ると、コーラ缶を持っていた逆の手にはビール缶が握られている。

「――酒なら親父と飲め」

 朋也が突っ込むと、宏樹は「まあまあ」と彼の肩を軽く掴むと、どさくさに紛れて部屋に侵入してきた。

「ほら、その辺に座れ」

 朋也の部屋なのに、宏樹は逆に朋也を自室に招き入れたように振る舞う。

(俺の部屋だっつうの……)

 そう思いつつ、気付くと宏樹のペースに乗せられている。

 朋也は畳の上に胡座を掻き、宏樹も同様に向かい合わせに腰を下ろした。