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 リビングへ入ると、期待通りの温かさが紫織の全身を包んだ。

 台所では母親が忙しそうに動き回っている。

「おはよう」

 紫織が声をかけると、母親はこちらを振り返った。

「あら、おはよう。日曜なのに早いのね」

 挨拶を返しながらも、全く手を休めない。
 大変そうだな、と紫織は他人事のようにそれを傍観していた。

「あ、そうそう。紫織、ちょっと外を見てみなさい」

「外……?」

 紫織は言われるがままにリビングのレースカーテンを開けて外を見た。
 すると、辺りは町中を覆い尽くさんばかりに雪景色が広がっている。
 昨晩から降り始めた雪は、寝ている間に町を銀色に染め上げていたのだ。

「うわあ……!」

 紫織は感嘆の声を上げた。

「凄いでしょう」

 いつの間にか、母親が紫織の側にいた。
 同時に、味噌汁の香りが仄かに匂った。
 どうやら、朝食を運んで来たようだった。

「こんなに積もるのなんて、本当に久しぶりだものね。昨年も降ったけど、ここまで積もることはなかったし」

「うん、そうだよね」

 紫織はしばらく、雪に魅入っていた。
 寒いのは大が付くほど苦手だが、そんな彼女も、暖房の効いた部屋の中で雪を見るのは好きだった。

 何色にも染まらない純白の雪。
 ただ、見つめているだけで心が洗われるような気持ちになる。

「紫織、そろそろこっちに来なさい。せっかくのご飯が冷めちゃうわよ」

 母親の声に、紫織はカーテンをゆっくりと閉めた。

 テーブルの上には、先ほど匂っていた味噌汁と白いご飯、そして焼き魚が並べられている。
 紫織は手近な場所に座り、箸を手に取った。

「そういえば、お父さんは?」

 食事に手を付ける前に、紫織は訊ねた。

 母親は困ったように眉根を寄せながら小さく笑んだ。

「紫織が寝ている間に仕事に行ったわよ。お父さんの仕事は、みんながお休みの日が一番の働き時だからね」

「そっか」

 予想通りの答えだったので、紫織の返事も短かった。

 父親が滅多に家にいないのは、昔から当たり前だったので淋しいと感じたことはない。
 その代わり、母親は常に家にいたし、すぐ隣には兄弟同然の幼なじみもいる。
 むしろ、この境遇を幸せだと思っているぐらいだ。

「ほら、片付かないから食べちゃいなさい」

 母親に促され、紫織はやっと箸で魚を突いた。