◆◇◆◇

 中に入ると、白い息が浮かび上がるほど冷えきっている。

 朋也は部屋の隅に置かれた電気ストーブのスイッチを入れると、学生服を脱ぎ、寛げるスウェットに着替えた。

 着替えてからは、脱ぎ捨てた学生服を手に取り、面倒臭いと思いつつハンガーに掛け、全ての作業が終わると、崩れるようにベッドに倒れた。

 考え込むのはあまり好きではない。
 しかし、ひとりでいると嫌でも紫織のことばかりを考えてしまう。

 自分に対しては可愛げがなく、愛想の欠片も見せようとしない。
 それなのに、ふとした瞬間に見せる笑顔を見ると、やはり紫織を好きなのだと自覚させられてしまう。
 もちろん、笑顔は宏樹だけに向けられているものだと分かっていても、だ。

「――めんどくせえ……」

 天井に向かって、朋也は呟く。

 いっそのこと、紫織を嫌いになってしまえたらどんなに楽かとも思ったが、一度意識してしまった気持ちはそう簡単に切り替えられるものではない。

 紫織が宏樹に切ない想いを抱いているように、朋也もまた、届かぬ紫織への想いに苦しんでいる。

 恋というのは、何故こんなにも複雑で厄介なのか。
 悩みばかりが増えてゆくばかりで、楽しいことなど全くない。
 まるで、出口の見えない迷路の中を延々と歩き続けているようだ。

(こんなに悩んじまうなんて、ほんと、あの頃の俺には考えられねえよ……)

 不意に、まだ無邪気だった幼い頃を想い出しながら、朋也は自らを嘲り笑った。