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 あれから朋也は、紫織とほとんど会話を交わすことがないまま家に着いた。

 何とも言いがたい重苦しい気持ちのまま、朋也は玄関のドアを開けると、スニーカーを脱いで中へと入り、そのまま自室のある二階へ向かおうとした。

「朋也?」

 階段を上りかけた時、リビングから母親が出て来た。

 朋也は片足を一段目に載せたまま、首だけを動かし、わずかに顔をしかめている母親と視線を合わせた。

「あんた、帰ったんなら挨拶ぐらいしなさい」

 予想通りの小言が彼女の口から飛び出した。

 朋也は心の中で軽く舌打ちすると、「はいはい」と軽く受け流して再び足を動かした。

「全く! 可愛げがないったら……」

 階段の下で、母親がブツクサ言っていたが、まともに聴いていたらキリがないのも嫌と言うほど分かっていた。

 朋也は知らんふりを貫き通し、階段を上りきって自室へと入った。