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 卒業式はつつがなく進んだ。

 そのあとは教室でひとりひとりに卒業証書が手渡され、担任と副担任からの挨拶を聴き、それで全て終了した。

 解放されてからは、それぞれが仲の良い同士で固まり、写真を撮り合ったり、サイン帳にメッセージを書き合ったりしている。

 紫織と涼香もまた、他のクラスメイトに交ざって写真を撮った。

 長いようであっという間だった三年間。
 こうして笑って過ごせる時間もないのだと思うと、やはり淋しいような気持ちになる。

「紫織!」

 クラスメイト達と別れの挨拶を終えたあと、朋也に呼ばれた。

「なに?」

「あのさ、よけいなお節介かもしれないけど……。兄貴、今日は休みで家にいるから」

 それだけ告げると、朋也は踵を返して紫織の前から去って行った。

(宏樹君が……)

 紫織はその時、宏樹の言葉を想い出した。


『とりあえず、紫織が高校卒業するまで待とう』


 あの日の台詞を、宏樹が憶えているかどうかは分からない。
 しかしそれよりも、紫織自身が改めて宏樹に気持ちを伝えたいと思った。

(言わなきゃ……!)

 紫織はその場から駆け出した。

「紫織、どうしたの?」

 途中で涼香に呼び止められた。

「ちょっと急いでるから! またね!」

 最後の挨拶にしてはずいぶんとおざなりなものになったが、今の紫織はそんなことにも気付いていない。

 それだけ、紫織の頭の中は宏樹でいっぱいだった。