あまり異性に興味を示さない紫織だけに、宏樹を見る目が全く違うことは、鈍い朋也でもすぐに勘付いた。

 宏樹を好きになる理由は分かる。
 朋也が劣等感を抱くほど賢く、常に穏やかな笑みを絶やさない。
 そして何より、紫織は幼い頃、極寒の日に家に帰れなくなり、最終的には宏樹に助けられたということもあった。
 そんな正義のヒーローとも呼べる宏樹に、紫織が惚れてしまったとしても無理はない。

 時々、紫織を救ったのが自分だったら、と思うこともある。
 しかし、当時は朋也もあまりにも小さ過ぎた。
 紫織を助けるどころか、逆に自分も紫織と同じように迷子になり、途方にくれてしまっていたかもしれない。
 それ以前に、朋也も一緒になって紫織を探すという頼みを誰も聴き入れてはくれなかったのだが。

「――俺は結局、兄貴以下かよ……」

 無意識のうちに口に出して呟いていた。

 紫織は怪訝そうに首を傾げている。

「ねえ、なんか言った?」

 どうやら、紫織には聞こえなかったようだった。

「別に」

 朋也は素っ気なく答えながら、内心、聞こえていなかったことにホッとしていた。

「ふうん……」

 紫織はまだ何か言いたげにしていたが、それ以上は追求してこなかった。
 もしかしたら、本当に朋也の何気ない一言など全く興味が湧かなかったのかもしれない。
 それはそれで、虚しいような気がする。

(俺はずっと、兄貴のオマケ程度にしか見られることがないんだろうな……)

 そんなことを考えていたら、さらに気分が重くなってきた。