「なに? 心配ごと? だったら話を聴いてあげるから!」

 そう言うや否や、涼香が例の如く抱き付いてくる。

「やっ、やめてってば! こんなことされたら、また変な誤解されるでしょっ!」

「大丈夫だって! どうせ今日で卒業なんだから! せいぜい同窓会で蒸し返される程度だってば!」

「だからそれがよけいにヤなのっ! 離せーっ!」

 ジタバタして抵抗を試みるも、涼香の腕力は紫織よりもあるので全く歯が立たない。

 ふたりがそうしてじゃれ合っている間、案の定、クラスメイトは好奇の視線をこちらに注いでくる。

(この抱き付き癖、ほんとにどうにかしてよお……)

 そう思った時だった。

「じゃれ合うのは勝手だけど、もうちょっと人目を気にしたらどうだ?」

 冷静に突っ込みを入れてきたのは、幼なじみの朋也だった。

「――はいはい、分かりましたよー」

 涼香は不満げにしつつも、素直に朋也の言葉に従って紫織を解放してくれた。

 助かった、と紫織は心底ホッとした。

「しっかしお前ら、最初から最後まで見せ付けてくれるよなあ……」

「私はそんなつもりないもん。涼香が勝手にくっ付いてくるから……」

「だってさ、紫織ってすぐにムキになるから面白くって! それに、これからは頻繁にスキンシップが取れないと思うと淋しくって」

 涼香の言葉に、紫織はガックリと項垂れた。
 やはり、涼香にとって紫織は、格好のからかい相手だったということか。

(同じ進路を選んでいたら、絶対また同じことを繰り返されてたよね……)

 そう思わずにはいられなかった。