◆◇◆◇
帰りの車の中は静けさに包まれていた。
ただ聴こえるのは、エンジンとエアコンの音のみ。
行きに散々寝たためか、今は全く睡魔が襲ってこない。
むしろ、このまま寝てしまうのは惜しいとさえ感じていた。
「紫織、憶えてるか?」
今まで運転に集中していた宏樹が紫織に話しかけてきた。
紫織はハッとして、運転席の宏樹に向けて首を動かした。
「紫織が迷子になった時のこと。あの時、紫織は俺に言ったんだよ。『ずっと、あたしといっしょにいてくれる?』って」
「――憶えてるよ。自分で言ったことだもん。それに、あの時の言葉を支えに私は今まで頑張ってきたようなものだし」
紫織は、今さらなにを、と不思議に思い、宏樹の表情を覗った。
宏樹は片手でハンドルを握り、空いた方の手で顎を擦りながら考えるような仕草を見せてから、「俺はさ」とポツリと口を開いた。
「あの約束、守れる自信が全くなかった。俺とお前は十歳も年が離れているし、それ以前に、あの頃は俺もまだまだガキだったから、チビの約束に縛られるなんて真っ平ごめんだ、って思っていたから。
でも、もしかしたら、今ならあの時の約束を守れそうな気もする。――ただ……」
「『ただ』、何?」
紫織が訊ねると、宏樹は一呼吸置いてから続けた。
「逆に、紫織を縛り付けてしまいそうな気がして……。――やっぱり、朋也の方が……」
「朋也は宏樹君じゃないよ」
紫織は宏樹の言葉を素早く遮った。
「さっきも言ったはずだよ? 私は、宏樹君が宏樹君だから好きなんだ、って。朋也ももちろん好きだけど、朋也に対しては、恋愛感情は持てないと思うから。――これからもきっと……」
帰りの車の中は静けさに包まれていた。
ただ聴こえるのは、エンジンとエアコンの音のみ。
行きに散々寝たためか、今は全く睡魔が襲ってこない。
むしろ、このまま寝てしまうのは惜しいとさえ感じていた。
「紫織、憶えてるか?」
今まで運転に集中していた宏樹が紫織に話しかけてきた。
紫織はハッとして、運転席の宏樹に向けて首を動かした。
「紫織が迷子になった時のこと。あの時、紫織は俺に言ったんだよ。『ずっと、あたしといっしょにいてくれる?』って」
「――憶えてるよ。自分で言ったことだもん。それに、あの時の言葉を支えに私は今まで頑張ってきたようなものだし」
紫織は、今さらなにを、と不思議に思い、宏樹の表情を覗った。
宏樹は片手でハンドルを握り、空いた方の手で顎を擦りながら考えるような仕草を見せてから、「俺はさ」とポツリと口を開いた。
「あの約束、守れる自信が全くなかった。俺とお前は十歳も年が離れているし、それ以前に、あの頃は俺もまだまだガキだったから、チビの約束に縛られるなんて真っ平ごめんだ、って思っていたから。
でも、もしかしたら、今ならあの時の約束を守れそうな気もする。――ただ……」
「『ただ』、何?」
紫織が訊ねると、宏樹は一呼吸置いてから続けた。
「逆に、紫織を縛り付けてしまいそうな気がして……。――やっぱり、朋也の方が……」
「朋也は宏樹君じゃないよ」
紫織は宏樹の言葉を素早く遮った。
「さっきも言ったはずだよ? 私は、宏樹君が宏樹君だから好きなんだ、って。朋也ももちろん好きだけど、朋也に対しては、恋愛感情は持てないと思うから。――これからもきっと……」