「紫織、改めて訊くぞ?」

 紫織は瞬きも忘れ、コクリと頷いた。

「本当に、俺でいいのか?」

 宏樹の問いに、紫織は瞠目したまま、その視線に釘付けとなった。

「――そんなの、訊かれるまでもないよ」

 宏樹を見つめたまま、ゆっくりと言葉を紡いでいった。

「私は、宏樹君が宏樹君だから好きなんだよ。優しいトコも、掴みどころのない性格も、今の宏樹君も、全てひっくるめて好きなんだよ。――宏樹君の代わりなんて、どこにだっていないんだから……」

 宏樹は真顔のまま、黙って耳を傾けていたが、そのうちに再び笑みを取り戻した。
 今までに見た中でも、最高の笑顔だった。

「俺は、最高の幸せ者だな」

 宏樹がそう告げた時だった。

 ふたりの目の前に、白いものがふわりと舞い降りた。

「――雪だ」

 宏樹が呟くと、紫織は空を仰いだ。

 決して大きな粒ではないそれは、ゆったりと落ち、紫織の手の中で跡形もなく消えてゆく。

「――あっけないね……」

 淋しげに言う紫織に、宏樹は「そうだな」と短く答える。

「でも、一粒一粒はどんなに小さくても、降り積もれば辺りを真っ白に染め上げてくれる。儚いようでも、実は結構、雪の花は逞しい存在じゃないかな」

 宏樹は紫織の手をそっと取った。
 あの時と同じ、温かさの中に力強さを感じさせる。

 紫織の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
 手を通して、宏樹の想いが流れ込むように伝わってきて、胸が熱くなってきた。

「そろそろ行くか?」

 紫織の頬に伝う涙を、反対側の親指で拭いながら宏樹が促す。

「うん」

 紫織が頷くと、宏樹は手を握ったまま、彼女と共に海岸をあとにした。

 何にも染まらない雪の花は、ふたりの髪に、肩に、止めどなく降り続けた。