紫織の唐突な行動を、宏樹はどう捉えたであろう。

 最初はただ、立ち尽くしたままの格好で紫織に抱き締められていた。

 そのうち、宏樹の腕がわずかに動いた。
 躊躇いがちに、だがしっかりと、彼は紫織の華奢な背中に腕を回した。

「紫織にはビックリさせられてばかりだ」

 耳元で宏樹が囁く。

「いつまでもガキのままかと思えば、時々、急に大人びた表情も見せて……。大人しいだけかと思えば、突然のように行動的になったり……」

 宏樹は片方の腕を解き、その手で紫織の髪を優しく撫でた。

「今さらだけど……、朋也が何故、紫織を好きになったかが分かった気がするよ。あいつはほんとに見る目がある。
 どんな時でも、自分に対して正直で、真っ直ぐで、偽りは絶対に口にしない。――そして、側にいるだけで安らぎを与えてくれる……」

「――私、そんな出来た人間じゃ……」

「自分のことなんて、自分自身では分からないもんだろ?」

 紫織が言いかけた言葉を、宏樹が遮った。

「紫織はいいものをたくさん持ってる。俺のように捻くれた人間からしたら、紫織のように素直に自分を表現出来るのは凄く羨ましいよ。
 俺は朋也が生まれてから――いや、朋也が生まれる前から、他人だけではなく、自分自身のことも冷めた目で見ていたトコがあったから……。
 こんなどうしようもない奴だから、本来なら、他人から愛される資格なんてないと思っていたけど……」

 宏樹はわずかに身体を離し、紫織を真っ直ぐに見据えた。