そのうち、宏樹の宣言通り、車はどこかの駐車場へと入って行った。

 その光景を目にしたとたん、紫織は、あれ? と思った。

「宏樹君、ここってもしかして……」

 紫織の言葉に、宏樹は「お察しの通り」と満足げに笑みを浮かべた。

「紫織が風邪を引く原因を作った場所だよ」

 宏樹はそう言いながら、車を駐車場の中の一番端に入れ、エンジンを停めた。

「さて、降りようか?」

 紫織の返事を聞く前に、宏樹はドアを開けて外に出てしまった。

 紫織は少しばかり躊躇した。

 宏樹の言った通り、ここは以前に風邪で寝込む原因となった海だった。
 海を見るのは嫌いではないが、以前にそんなことがあった以上、降りるのに迷いが生じてしまうのも無理はない。

(また風邪引いたら、お母さんになに言われるか……)

 紫織が一番に恐れているのはそこだった。

 そんな紫織の思いとは裏腹に、宏樹は閑散とした駐車場の中で、大きく背伸びをしている。
 長時間の運転は疲れる、と父親からも何度か聴いたことがあるから、宏樹も相当疲労が溜まっていたに違いない。

(ただ、そんな疲れる思いまでしてここまで来るってのも理解に苦しむトコだけど……)

 紫織は苦笑いしながら、いつまでも車の中にいても仕方ない、と思い直し、外に出ることにした。

 もし、また風邪を引いたりしたら、今度は宏樹君に責任を取ってもらおう、とそんな打算的な考えも頭を過ぎった。