◆◇◆◇

 どれほどの時間が経過したであろうか。
 紫織はやっと、夢の世界から現実へと舞い戻った。

「お? 今日は自分から起きたな」

 宏樹はハンドルを握ったまま、紫織をチラリと一瞥した。

「この間は俺が起こすまで、ずーっと寝ていたからな。今日も、着いてからどうやって起こそうか考えいていたんだけど」

 紫織はまだ半分閉じた状態の瞼をこすり、怪訝に思いながら宏樹を見つめ返した。

「――何するつもりだったの?」

 そう訊ねると、宏樹は前を見たまま口の端を上げた。

「そうだなあ……。鼻を摘まむとか、頬を軽くつねってみるとか。――あとは……」

「――なに?」

 紫織は小首を傾げながら、話の続きを待った。
 だが、宏樹はそれ以上、何も言おうとしない。

「そろそろ着くぞ」

 まるで誤魔化すように告げる宏樹。

 紫織は大いに不満を感じていたが、どんなに訊いても答えてくれないのも充分に理解していたので、それ以上は何も追求しなかった。