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 しばらく車に揺られているうちに、紫織に睡魔が襲ってきた。
 気力で持ち堪えられるだろうと思ったが、やはり、無理があったらしい。

(これじゃ、前に海に行った時と同じになっちゃうよ……)

 紫織は何とか眠気を飛ばそうと、何度も瞬きを繰り返したり、さり気なく頬をつねってみたりしてみたが、全く効果がない。
 それどころか、ほど良い温かさと震動が手伝って、さらに夢の世界へ引きずり込まれそうになる。

 目の前の信号が赤に変わったので、車が停止した。
 と同時に、宏樹が紫織に視線を向けた。

「眠いのか?」

 ストレートに訊ねてきた。

 紫織はギクリとしたが、「違うよ」と首を振った。

「ちょっと疲れただけだから……。だから気にしないで」

「強がりを言ったって無駄だぞー」

 宏樹はニヤリと口元を歪めた。

「前にも言っただろ? 俺は変に我慢されるより、素直に寝てもらった方が助かる、ってね」

「――それはちゃんと憶えてるよ」

「だったらすぐに寝なさい。これは俺からの命令。着いた先でぶっ倒れられても困るだけだしな」

 そこまで言われてしまうと、紫織ももう、返す言葉が見付からない。

「――分かりました……」

 紫織は口を尖らせながら答えつつも、内心では、宏樹の好意をありがたく感じていた。

 そのうち、信号が青に変わった。

 宏樹が車をスタートさせてから、紫織は数分と経たないうちに深い眠りに堕ちた。