「――紫織?」

 宏樹が心配そうに紫織の顔を覗ってきた。

「どうした? まさか、風邪引いてるのに無理して来たんじゃないだろうな?」

「ち、違うよ!」

 紫織は慌てて否定してから、「ただ」と言い加えた。

「宏樹君に、悪いことしちゃったなって思って……」

「俺に? 何で?」

「だって……、それ……」

 紫織は再び、熊のキーホルダーを指差した。

 宏樹も釣られるように視線を落としてそれを見つめていたが、やがて、あはは、と声を上げて笑い出した。

「だから、そんなのいちいち気にすることじゃないから! それに、こういうプレゼントの方が紫織らしいなとホッとしたぐらいだ」

「――ほんとに……?」

「ほんとに」

 恐る恐る訊ねた紫織に対し、宏樹は大きく頷き、「さて、そろそろ出発するか」と言って、キーを回した。