◆◇◆◇

 駅に到着してから二十分ほど経過した。

 また、ポスターがパタパタと揺れ出した。

 紫織は反射的に顔を上げ、ガラス戸の方に視線を送った。
 同時に、そのままそちらを凝視する。

 待ち人が、そこに現れた。

「おはよう」

 紫織は立ち上がると、相手――宏樹に向かって笑みを振りまきながら挨拶する。

 宏樹もそれに応えるように、「おはよう」とニッコリ笑った。

「悪いな、待たせてしまって」

「ううん、全然。それよりも大丈夫?」

「ん? 何が?」

「だから、その……、家の人、とか……」

 朋也の名前は何となく出しづらかったので、ぼかしながら言ってみたが、宏樹はすぐに「ああ」と理解してくれた。

「別に問題なしだ。どのみち、あいつはいつもの如く、朝早くから出かけたしな」

「そっか」

 宏樹の言葉に、紫織はホッと胸を撫で下ろした。

 だが、宏樹はそんな紫織に「そんなに安心も出来ないかもしれないぞ?」と付け加えた。

「朋也が出ているってことは、いつ、どこであいつとバッタリ逢ってもおかしくないってことだからな。――まあ、俺達がこれから行く場所は、あいつには全く縁のなさそうなトコだし、大丈夫だとは思うけど」

 宏樹はそこまで言うと、苦笑しながら肩を竦めた。

「それじゃ、行くか?」

「あ、うん」

 宏樹に促され、紫織はその場から立ち上がった。