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 駅に着くと、紫織はコンクリートの階段を駆け上がる。

 腕時計を見ると、待ち合わせにはまだ少し早かったが、いつになく気持ちが昂ぶっていた。

 紫織は階段を登りきり、重いガラス扉を押して、待合室の中に足を踏み入れた。

 人はちらほらと見受けられたが、宏樹らしい姿は見当たらない。

(ちょっと早かったもんね)

 紫織は空いている椅子に腰を下ろすと、ぼんやりと辺りを見回した。

 古びた駅の内部には大きな時刻表が掲げられており、地域のアピール用のポスターもあちこちに貼られている。

 ふと、その中の一枚の右上が剥がれかかっているのが目に飛び込んだ。
 しばらく経つうちに、画びょうが落ちてしまったのだろう。

 角が剥がれたポスターは、扉が開くたびに風に煽られて小さく揺れる。
 ポスターの中に映っている女性は白い歯を見せながら満面の笑顔を浮かべているが、それが紫織には、よけいに物悲しく感じた。