中から現れたのは、熊のマスコットが付いたキーホルダーだった。

「けど、これが紫織の精いっぱいの気持ちなんだよな」

 宏樹は、頭上にそれを掲げながらしばし眺める。
 どう見ても、二十代後半の男に贈るような代物ではないが、よくよく見ると、熊の表情に愛嬌があって可愛らしい。

「車のキーにでも付けるか」

 ひとりごちると、キーホルダーを振り子のように前後左右に揺らした。

 熊は表情を変えることなく、なすがままにされている。
 熊の気持ちになってみたら、無造作に揺らされるのは迷惑以上の何ものでもないと思うが。

「さて、俺もウチに入るか」

 宏樹はキーホルダーを手に包み込み、ゆっくりと立ち上がった。

 ふと空を見上げると、辺り一面に星が瞬いている。
 冬は空気が澄んでいるから、なおのこと綺麗に見えた。

「日曜日はどうなるか」

 誰にともなく呟くと、宏樹は星達に見守られるように家へ消えた。

[第九話-End]