「いつがいい?」

 そう訊ねると、今度は紫織が驚いたように瞠目した。

「――いいの……?」

「いいもなにも、紫織から俺に頼んできただろ?」

「そうだけど……」

 この様子を見ると、どうやら、断られるのを覚悟していたらしい。

 紫織の間の抜けた表情を見ていたら、宏樹も一気に力が抜けて笑顔が戻った。

「で、いつなら都合がいい?」

 宏樹は重ねて訊いた。

「え、えっと……、私はいつでも大丈夫だけど……」

「なら、今度の日曜日にする?」

「う、うんっ!」

 戸惑いながらも、紫織は強く頷いた。

 最近は子供扱いされるのを嫌う紫織だが、こういった無邪気な仕草を見ると、まだまだだな、と思ってしまう。
 もちろん、それが紫織の長所でもある。

「よし、決まりだな」

 宏樹はいつもの調子で、紫織の頭をそっと撫でた。

「それじゃあ、十時頃に出ようか? それとも、もう少し遅い方がいいか?」

「ううん! 大丈夫!」

「そっか」

 またしても笑いが込み上げてきたが、どうにか唇を噛んで堪えた。

「じゃあ決まりだな。さてと、そろそろ家に入らないとな」

「え……?」

 宏樹の言葉に、紫織は急に表情を曇らせてしまった。

「――もうちょっとだけ、宏樹君と話したい……」

 宏樹は、やれやれ、と思いながら苦笑した。