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 部屋着のままで外に出た宏樹は、先ほどの電話の相手――紫織の家の前まで来た。

 家の中との温度差は、空中に吐き出される息の白さからも分かった。
 辺りに漂う空気は、寒いと言うよりも痛いと感じる。

 少しばかり待つと、紫織も家から出てきた。
 その腕には貸したコートがかけられており、反対側の手には小さめの紙袋が握られている。

「ごめんね」

 宏樹の前まで来るなり、紫織は真っ先に謝罪を口にした。

 宏樹は「いや」と答えながら小さく笑んだ。
 これは昔からの条件反射で、どんな時でも、紫織を見ると同じような表情になってしまう。

「でも良かった」

 紫織もまた、宏樹の微笑みに応えるようにニッコリと笑った。

「ほんとはね、電話しようかどうか悩んだんだ。小父さんや小母さん、あとは……、朋也が出たらどうしよう、って思ったから……」

 朋也の名前が出るまで、ほんの少しの間があった。
 やはり、彼女も朋也に対して後ろめたさを感じていたのだろう。
 宏樹は思った。

「あ、そうだ」

 紫織は紙袋の紐を手首にかけると、その空いた手でコートを手にし、両手に載せてから宏樹の前に差し出してきた。

「コート、ありがとう。それと、返すの遅くなってごめんね」

「そんなの気にすることないよ」

 宏樹は微苦笑を浮かべながらコートを受け取った。

 それを見届けた紫織は、今度は手首から再び紙袋を取った。