「――分かったよ」

 宏樹は言った。

「それじゃあ、今すぐに出るから。ただし、用が済んだらすぐに家に入れよ? また風邪を引いたら大変だからな」

『うん! 分かった!』

 宏樹の答えが、相手は相当嬉しかったのだろう。
 先ほどとは打って変わり、声の調子が急に明るくなった。

『それじゃ、私もすぐに出るね!』

 そう言うなり、相手はそそくさと電話を切ってしまった。

(せっかちだな……)

 ツーツーと鳴り続ける受話器を睨みながら、宏樹は小さな溜め息をひとつ吐いた。

(とにかく、すぐに行って戻って来るか)

 そう言い聞かせると、受話器を元に戻し、ゆったりとした足取りでリビングを後にした。