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 紫織が向かった先は、大型ショッピングセンターだった。
 そこには多種多様な店が入っているので、外をいちいち歩き回らなくても一カ所で買い物を済ませられる。
 何より、寒がりな紫織にはとてもありがたい場所でもあった。

 ただ、店内に入ると、外とは対照的な熱気を感じた。
 暖房がしっかり効いている上、人が密集しているから無理もない。
 紫織は帽子と手袋を外したものの、それでもまだ暑くて、とうとうコートまで脱いでしまった。
 これにより、よけいな荷物が増えた。

(だから冬って嫌い)

 心の中ぼやきながら、まず、男性小物を扱う店へ足を運んだ。

 ショッピングセンター内だから閉鎖的ではないが、あまり慣れないから、中を見て回るのは多少なりとも抵抗があった。

(とっとと決めて出よう!)

 そう思った時だった。

「何かお探しですか?」

 背中越しに声をかけられた。
 突然のことに紫織は心臓が飛び上がらんばかりに驚き、恐る恐る後ろを振り返った。

 こちらに向かって、にこやかに微笑む女性と目が合う。
 私服姿ではあるが、胸の辺りに小さなネームプレートが付けられていたので、考えるまでもなくこの店の従業員だ。

「え、えっと……」

 店員から声をかけられることを全く想定していなかった紫織は、すっかり動揺してしどろもどろになっていた。
 何でもない、と言って逃げようかとも思ったが、それも失礼な気がした。

(この際だし、店員さんにアドバイスしてもらった方がいいかな)

 そう思い、紫織は意を決して口を開いた。