「これでも俺、本気で兄貴を心配してんだからな。――兄貴のようなタイプは、突然、何をしでかすか分かんねえしよ」

「――何すると思ってんだ?」

 怪訝に思いながら朋也に訊ねる。

 朋也は少し躊躇い、しかし、はっきりと口にした。

「――例えば、自殺とか……?」

 朋也の答えに、宏樹はギョッとして目を見開いた。
 まさか、朋也にそこまで考えさせていたとは予想外だった。

「そんなに自殺しそうに見えるか、俺は?」

 宏樹が重ねて訊くと、朋也は今度は「うん」と大きく頷いた。

「俺と違って兄貴は、誰にも相談しないで自分の中に溜め込むから……。そのうち、感情が爆発しちまうんじゃないかって、そう思った……」

 最近の朋也の言葉は、さすがの宏樹もハッとさせられ、また、鋭いところを突いているので耳が痛い。

 一方、当の朋也は、思ったことが言えたといった感じで、心なしか清々しい表情をしている。

(やれやれ……)

 宏樹は苦笑しながら人差し指で頬を掻き、「大丈夫だよ」と言った。

「俺はお前が思ってるほど、そんなにヤワに出来ちゃいない。それに、親から貰った命を、そんな粗末に扱えないだろ?
 けど、朋也の気持ちはありがたくちょうだいしとくよ。――ありがとな」

 素直な想いを口にした。
 が、朋也は「キモッ!」と頬を引き攣らせた。

「改めて兄貴に感謝されると、なんかこう、全身に鳥肌が立っちまう。
 ああ! やっぱダメだ! 素直な兄貴なんて兄貴じゃねえよ気持ちわりい!」

 ああ言えばこう言う。
 宏樹は、やれやれ、と肩を竦めた。

(ちょっと感謝するとこれだもんな……。ま、別にいいんだけど)

 宏樹は眉根を寄せながら笑むと、未だに「気色わりい!」と、自らの両腕を擦り続ける朋也を傍観した。

[第八話-End]