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 朋也には、決して本当の自分を見せるつもりはなかった。
 しかし、気持ちとは裏腹に口が勝手に動いていた。

 もしかしたら、自分でも気付かないうちに、本心を全て曝け出してしまいたいと思っていたのだろうか。

(情けない)

 自分の前にぼんやりとして立っている朋也を傍観しながら、宏樹は複雑な心境だった。
 感情的になってしまった自分に心底呆れる。

「何があったか知らないけど」

 躊躇いがちに朋也が口を開いた。

「あんまりひとりで思い詰めるのも良くねえんじゃねえの? 確かに兄貴は〈兄〉って肩書きがある以上、簡単に弱音を吐けないかもしれねえけど。
 でも、俺だってもう高校生だし、兄貴の話を聴いてやるだけのことは出来ると思うぜ? ――まあ、アドバイス、ってなるとさすがに厳しいけど」

 朋也は真剣そのものの眼差しで宏樹を見つめている。
 本心から今の言葉を言ったのは、朋也の表情からもしっかりと覗えた。

「生意気言ってんじゃねえよ」

 本当は嬉しかったのに、いつもの癖で、宏樹はついつい、心にもないことを口走ってしまう。

「何とでも言えよ」

 朋也もまた、いつもの調子で口を尖らせながら返してきた。