そのうち、玄関のドアが開かれる音が聴こえてきた。
 建て付けが悪くなりかけているドアは耳障りな音を立て、ガタン、と閉じられた。

(ほんとに、行っちまったんだな……)

 誰もいなくなった部屋は哀しくなるほど静まり返り、あまりにも広く感じる。

 高校生にもなって、人恋しくなってしまうのは非常に滑稽だが、何故か今は、誰かが側にいてくれたら、と朋也は切実に思った。

「……ガキじゃねえよ、俺は……」

 口にしたとたん、鼻の奥に、ツンとした痛みを覚えた。

 朋也は一瞬、何が起こったのか分かりかねた。
 しかし、すぐにその正体ははっきりとした。

 自分の意識とは裏腹に、瞳から涙が溢れ出た。
 それは、テーブルに止めどなく落ち、小さな水溜まりを作ってゆく。

 朋也は涙を流しながら、ふと、最後に泣いたのはいつだったか、と考えた。

(こんな醜態、紫織にも兄貴にも見せられやしねえ)

 零れ出る涙を手の平でせき止めると、朋也はボックスティッシュを手探りで探し当てた。
 そして、その中から連続で三枚引き抜き、勢い良く鼻をかんだ。