「――俺は別に、自分が不幸だなんてちっとも思ってねえよ」

 静かな口調で朋也が言うと、紫織はピクリと小さく反応した。

 朋也は続けた。

「確かに、紫織に応えてもらえないのは悔しいって思う。けど一番ムカつくのは、変に同情を寄せられることだ。だってそうだろ? どんなに同情されたって、結局は最後まで片想いで終わっちまうのは目に見えてんだから」

 そこまで言うと、朋也はコーヒーに手を伸ばした。
 口にしてみると、中はほとんど冷めている。
 温くてあまり美味しくないと感じつつも、朋也は顔をしかめながら全部飲み干した。

「――ごめんなさい……」

 鼻を啜りながら、紫織がポツリと謝罪した。

「同情してるつもりなんてなかったけど……。朋也にしてみたら、同情以上の何ものでもなかったんだね……。
 涼香もきっと、朋也と同じことを考えてたかもしれない。――あとで、ちゃんと謝らないと……」

 紫織はそう言うと、自分のバッグからハンカチを取り出し、それで涙を拭った。

 朋也はしばらく紫織の様子を見つめてから、「いや」と首を振った。

「俺もちょっと言い過ぎた……。つい、感情的になってしまって……。悪い、紫織」

 自らも謝罪を口にしてから、朋也は、俺も何やってんだか、と呆れた。

 口先ではずいぶんと格好良いことを言ってしまったが、もし、宏樹と紫織が結ばれたらどうなるか。

 数日前、母親から『ナカガワさんとかいう人から電話がかかってきた』と、宏樹に告げられたあとの彼の反応。
 わずかではあったが、珍しく動揺していたのを朋也も見逃さなかった。