朋也にやっと追い着いた紫織は、息を切らせながら彼の隣に並んで歩いた。

「はあ、はあ……。もう、学校行く前から疲れさせないでよ……」

「そりゃあ単に、普段から運動不足なせいだろ?」

 図星を突かれた紫織はムッとして、朋也を恨めしげに睨んだ。

「その言い方はないでしょっ? なによ、せっかくこっちは朋也を心配してあげてるってのに!」

「はあ? お前に心配されるいわれなんてねえよ!」

「――いちいち腹立つなあ……」

「うるせえ! どうせ俺は兄貴と違って馬鹿だよ。んなもん、ガキん頃から分かってらあ!」

 朋也は口を尖らせて下を向いた。
 隣でそれを見ている紫織からは、ただ、溜め息しか出てこない。

 あっという間に成長し、気が付くと兄である宏樹の身長も超してしまった朋也。
 だが、それは外見だけであって、中身はまるっきり子供のままである。

 反応を面白がってからかう宏樹君も宏樹君だけど、すぐに真に受けて本気で怒る朋也にも充分問題があるんじゃ、と紫織は思った。

 毎度、間に挟まれてしまう紫織は堪ったものではない。
 宥めようにも、先ほどの状況が表していたように、治まるどころか悪化の一途を辿るばかり。

 人知れず、紫織は苦労をしているのだ。
 だからと言って、この兄弟と縁を切りたいと思ったことは一度たりともない。

 どちらも大切で、ことに宏樹に対しては、子供の頃から特別な感情を抱いている。

 それを〈恋〉だと自覚したのは、今から四年ほど前。
 小学生だった紫織に対し、宏樹はすでに二十歳を超えていた。

 〈妹〉としか見られていないのは、ずっと前から分かっていた。
 早く大人になりたいと、どれほど切実に願ったことだろう。
 それでも、十歳という年の差は埋まらない。
 紫織が年を重ねれば、宏樹もその分だけ年を取ってゆく。

 もちろん、宏樹が気持ちに応えてくれる可能性はゼロではないと思うが、期待出来るわけでもない。

 どうして、宏樹を好きになってしまったのか。
 そんな自分に、ほとほと嫌気が差すことがあった。

 ふと、何気なく朋也を見た。
 彼は相変わらず不貞腐れたままである。

 実の兄弟であるはずなのに、どうしてこうも違うのだろうか。

 共通点のほとんどない兄弟を頭の中で比べながら、朋也には恋愛感情が湧くことはないだろうと、紫織は漠然と感じていた。