「お袋が作るのよりはイマイチだと思うけど、飲めないことはねえだろうから」

 そう断りを入れた朋也に対し、紫織は何も言葉を発しなかった。
 テーブルの中心に置いていたグラニュー糖とミルクに手を伸ばすと、それらをココアの中に入れ、カップの中に差し込まれていたスプーンで、ゆっくりと混ぜていた。

 朋也はそれを一通り見届けてから、自らはブラックのままでコーヒーを口にする。
 甘いものがそれほど得意ではない彼には、少し苦い方がちょうど良い。

(さて、どうしたもんか……)

 朋也は三分の一ほど飲んでから、カップをテーブルに置いた。

 紫織から話を聞きたいと思ってはいたが、どうやって切り出したら良いのか。
 というより、何を訊きたいのかすら分からない。

 朋也が考え込んでいる傍らで、紫織は黙々とココアを飲み続けている。
 その目はどこか虚ろで、まるで生気が感じられない。

 静まり返ったリビングには、ファンヒーターから出る温風と、壁にかけられた時計の針の音がやけに煩く響いている。
 あとは時おり、カップを動かした時、スプーンの擦れる音が聴こえるだけだった。