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 友人達と遊び回っていたら、いつの間にか陽がすっかり暮れていた。

 家に着いても両親はいない。
 親戚の叔母が急に倒れたらしく、朝早くから出かけてしまっていたのだ。
 その時、今日は帰って来られないだろう、とも言っていた。

 当然ながら、宏樹も仕事で帰りが遅い。

(今日はなに食お……)

 今晩の夕食のことを考えながら、家の前の門を開けようとした時だった。

 ちょうど朋也が帰って来た反対側から、紫織が俯き加減に歩いて来るのが目に付いた。

「紫織!」

 朋也が呼ぶと、紫織はハッとしたように顔を上げる。

 朋也は門から手を離し、紫織の元へと近付いた。
 同時に、彼女の表情にいつになく違和感を覚えた。

「――目、赤くないか?」

 すぐにその正体を見極めた朋也は訊ねた。

 紫織は何も答えない。
 その代わり、神妙な面持ちで再び俯いてしまった。
 そうだよ、と言わんばかりに。

「――大丈夫か?」

 もう一度訊ねると、今度はゆっくりと首を縦に振った。

(相当無理してんな)

 朋也は眉根を寄せながら紫織を見つめた。

「そんな顔で帰ったら、小母さん達を心配させちまうだけだ。――俺ンちに寄ってけ」

 そう言うと、朋也は紫織の腕をそっと掴んだ。

 いつもであれば、『気安く触んないで!』と怒るか、振り払うかのどちらかなのだが、泣き疲れてしまったのか、紫織は全く抵抗しなかった。

 それはそれで嬉しいのだが、半面で、調子が狂ってしまうというのも本音であった。

(けど、こんなチャンスは滅多にないだろうし)

 心の中で自分に言い聞かせると、腕を引いて紫織と共に家の中へ入った。