「紫織……」

 涼香はカフェオレをベンチの上に置くと、紫織をそっと引き寄せた。

 いつもであれば、その行為に抵抗するところだが、今は突き放すだけの余力がない。
 否、むしろ、紫織の方から涼香に身を寄せていた。

「私、最低だ……」

 ひとりごとのように紫織は呟いた。

「宏樹君は私の幸せを願ってくれてるのに……。私は、宏樹君の幸せを手放しで喜んであげられない……」

 とたんに、紫織の瞳に熱いものが込み上げてきた。

「……うっ……ううっ……」

 必死で堪えようとするも、一度溢れ出た感情は抑えることが出来ない。
 胸が痛くて、息も吐けないほど苦しい。

 涼香は何も言わなかった。
 ただ、嗚咽を漏らし続ける紫織を抱き締め、髪を撫で続ける。

 涼香に甘えている自分はどうかしている。
 紫織はそう思う半面で、涼香が側にいてくれたことに心から感謝していた。