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 待ち合わせ場所となっている高校の最寄り駅には、約束の十分前に到着した。

 紫織は駅の構内を見渡して涼香を探すが、それらしき姿は見当たらない。
 まだ来ていないのであろうか。

(しょうがないなあ)

 紫織は一番分かりやすい改札の前に立ち、涼香が現れるのを待つ。

 時間は刻々と過ぎてゆく。

 そのうち、電車から降りて来た人達を数人見たが、その中にも涼香はいなかった。

(あーあ、時間過ぎちゃったよ)

 腕時計に視線を落としながら、紫織は小さく溜め息を吐く。

 マイペースな涼香のことだ。
 もしかしたら、一本遅い電車に乗り込んだ可能性も充分に考えられる。

(ちょっとぐらいならいいけど、勘弁してほしいよ……)

 そんなことを思っていた時だった。

 突然、ガッツリと両肩を掴まれた。

「――……!」

 紫織は驚き、危うく大声を上げそうになってしまった。

(だ、誰……?)

 恐る恐る振り返る。
 すると、そのすぐ目の前では、いつも見慣れた顔がニヤリと笑っていた。

「――りょ、涼香……」

 正体が分かったとたん、紫織はホッと胸を撫で下ろした。

「ビックリさせないでよお……」

 脅かされた恨みを籠めて涼香を睨みながら言うと、涼香は「ごめんごめん!」と謝罪してきた。
 だが、どう見ても、心の底から申し訳ないとは絶対に思っていないのが嫌というほど伝わる。

「何はともあれ、お互い、無事にここまで来れて何より! よし! それじゃあ早速行こうか?」

 紫織の複雑な心境などお構いなしに、涼香は意気揚々と歩き出す。

 紫織は何も返す言葉が見付からなかった。

(全くもう……)

 紫織は苦笑いを浮かべながら、涼香と並んで歩いた。